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ニニギの降臨

「葦原中国(あしはらなかつくに)は、
 我が子孫が君主となるべき国である。
 汝、皇孫よ、
 これから行ってこの国を治めなさい。
 さあ、行きなさい!
 天つ日嗣が栄えるであろうことは、
 天地とともに永久に続き、
 窮まることはないであろうー!」

アマテラス様の言揚げに、高天原中が沸きました。

アマテラス様は、八坂瓊曲玉(やさかにのまがたま)、八咫鏡(やたのかがみ)、草薙剣(くさなぎのつるぎ)の三種の宝物を、降っていくニニギ様に、お手ずから下賜されます。

そして、お供には、
天児屋命(あめのこやのみこと)様、太玉命(ふとだまのみこと)様、石凝姥命(いしこりどめのみこと)様、玉屋命(たまやのみこと)様、そして、アメノウズメ様を配されました。

あの「天の磐戸」のときの懐かしいメンバーです。
アマテラス様も、あのお苦しいときを、共に乗り越えた神々には特別のご信頼をおいているのでしょうか?
それとも、はからずも「迷い」という神にあるまじき姿を見せた、これらの神々を内心、疎ましく思っての追放なのでしょうか・・・?
さすがに、侍女として長年お仕えしているわたくしにも、アマテラス様のお心は分かりません。

あら? あらあらあら。
アメノウズメ様ったら、眠そうだこと・・・

只今は、ニニギ様を降臨させるための儀式の真っ最中でございます。

まあ、アメノウズメ様、
今にも、上の瞼と下の瞼がくっつきそう。
儀式とは、とかく長くて退屈なもの。
ウズメ様だけでなく、他の神々も、あくびを噛み殺すのに必死になっていらっしゃる。

と、そんな昼下がりのけだるい空気を切り裂くように、
「一大事でござるぅ~~~!」
血相変えて、オモイカネ神様が飛び込んでこられました。
いったい何事が起きたのでしょう…!

「私が綿密な謀をめぐらせたところ・・・」
まあ、オモイカネ様の口癖。
でも、思いっきり走ってこられたのか、息が切れ、次の言葉が出てきません。

しばらく息を整えたオモイカネ様のお話によりますと、オモイカネ様は、万一にも、天孫ニニギ様の道中に不穏なものがないよう、出発の前に先駆の者を、遣わしていたというのです。
さすが、高天原一の知恵者、オモイカネ様ですわね。

で、その先駆の者が帰ってきて報告するには、
なんと、ニニギ様の行く手には、鼻の長さが七咫、背の長さが七尺余り、口のわきが光り輝き、目が八咫鏡のように赤々とほうずきのようにも見える神が、居座っているというのです。

いったいなにゆえでしょう…?
おそろしい・・・

「他の者ではダメでしょう。
 アメノウズメ殿。
 そなたが行って訊ねてきておくれ。」

そう言うと、アマテラス様は、そっと、わたくしに目配せをなさいました。
わたくしもウズメ様に続きます。

「そなたも一緒に行ってくれるの?
 そうねぇ~。
 女同士の方が、きっと怪しまれないわね。」

そして、
「女にはねぇ~
 男と違ったやり方があるのよ。
 機先を制したものが勝ちなのよ!」

そう私の耳にささやき、ウズメ様は、
スルスルと、着ているものを脱がれました。
そして、見事な胸もあらわに、裳の紐もお臍の下にまで押し下げてしまわれたのです。
ウズメ様、いったいなにを~?

そして、あろうことか、その怪しげな神の前で、嘲笑うかのように舞い始めたのです。
気を呑まれて呆然としている神に、

「アマテラス様の御子が、
 今お通りになられようとする道に、
 こうして立ちふさがっているお前はいったい何者だ。
 訊ねたい!」

毅然として、そうおっしゃられました。

「アマテラス様のお子神が、
 今、降臨されるとうかがったので、
 お迎えするためにこうしてお待ちしているのだ。
 私の名は、猿田彦(さるたひこ)というのだ。」

「では、お前が私を先導してくれるのか、
 それとも私がお前に先行しようか?」

「私が先導申し上げる。」

「では、お前はどこに向かって行こうというのか。
 お前について行くと、
 皇孫はどこにお着きになることになるのか。」

「天神の御子は、
 筑紫の日向の高千穂にお着きになろう。
 私の方は、伊勢の狭長田(さなだ)の五十鈴川の川上に行く。」

気を呑まれたのは、わたくしの方でございます。
わたくしは、このお二人のやり取りを、ただ、阿呆のように見ているだけでございました。

アメノウズメ様は、事の次第をアマテラス様にご報告されました。
そして、、いよいよ、皇孫ニニギ様は、天磐座(あまのいわくら)を押し離って、天八重雲を押し分け、威厳に満ちて、道を押し分け押し分けて、天下って行かれます。

のちに、猿田彦神を、伊勢の五十鈴に送り届けられたウズメ様は、ニニギ様から、この神の名を姓氏として賜り、以後、そのご子孫は、猿女君(さるめのきみ)と名乗るようになったそうでございます。

奔放なウズメ様も、落ち着くところに落ち着かれたということでしょうか。
いったいなにが、ウズメ様のお心を動かしたのでしょう~?
わたくしは、ここ高天原で、アマテラス様と共に、ニニギ様の行く手が、幸多かれ、と願うばかりでございます。
by pain0107 | 2004-07-23 15:48 | 2.葦原中国の平定
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